ソムリエ・SAKE DIPLOMA 藤田から
知られざる「ひれ酒」の誕生秘話。
この時期、北海道に「雪虫」という白くて小さな虫が飛び交います。
もうすぐ初雪が降るという便りです。
日に日に寒くなり、温かいお酒が飲みたくなる季節、
よくご注文頂く燗酒の一つが「フグひれ酒」。
香ばしく焼いたフグのヒレに熱々の燗酒を注ぎ、更に火をつけてアルコールを飛ばして飲むという、ひれ酒独特の飲み方があります。
その一連のお作法のようなものがあるので、もしや歴史と伝統のあるお酒なのかと思いきや・・・
実は日本酒文化の中では意外と歴史が浅く、戦後の日本、物資が不足し
お酒も貴重なものとなっていた昭和初期の時代でした。
当時の日本酒は、添加物などを足して量増しされた「三増酒」。
味が薄められたそのお酒は、あまり美味しいものではなかったと言われます。
それが偶然、三増酒を燗酒にして飲んでいた漁師さんが、焼いた魚のヒレでお酒をかき混ぜたところ、ヒレの旨味がお酒に移り、三増酒が見事に美味しくなった、
というエピソードがあるそうです。
こうして「ひれ酒」は誕生しました。
その後、さまざまな魚のヒレが試され、中でも特にふぐのヒレが美味しいと評判になりました。
その秘密はふぐのヒレにはグルタミン酸とイノシン酸という「旨味成分」が豊富に含まれているという研究結果があるそうです。
良質な日本酒がいつでも手に入るようになった現代でも、
香ばしく、旨味が溶け込んだひれ酒は日本酒ファンに愛され、今もなお健在なのであります。
戦後の苦しい時代に誕生し、日本酒を美味しく飲みたいという人々の熱い思いから進化した奇跡の一杯。
冬の始まりにいかがでしょうか。